「跡継ぎがいない」「そろそろ誰かに任せたい」「でも誰に相談すればいいのか分からない」――事業承継という言葉を頭の片隅に置きながら、毎日現場に追われている経営者の方は、本当に多いです。
税理士に相談したら「税金の話」しかしてくれなかった。銀行に行ったら「M&Aの話」になってしまった。商工会議所に行ったら資料をもらっただけで終わった……。そんな経験をされた方もいるのではないでしょうか。
事業承継は「誰に相談するか」で、その後の展開がまったく変わります。今回は、20年間にわたって飲食店・美容室・小売店の経営者の方々と向き合ってきた立場から、専門家の使い分けについて整理してお伝えします。
📋 この記事でわかること
- 事業承継の相談先として「誰が何を担当できるか」の全体像
- 税理士・弁護士・中小企業診断士・コンサルタントの役割の違い
- 「仕組みができていない店」が承継前にやるべきこと
- 相談相手を選ぶときに失敗しないための考え方
こんな方におすすめ
- ✅ 事業承継を考え始めたが、誰に相談していいか分からない方
- ✅ 税理士や銀行に相談したが、「経営の話」をしてくれなかったと感じた方
- ✅ 後継者候補はいるが「継がせられる状態の店になっているか」不安な方
- ✅ 売上や利益の仕組みが自分個人に依存していると自覚している飲食店・美容室経営者の方
- ✅ 5年・10年先を見据えて経営の土台を作り直したい方

目次
事業承継の「相談先」が多すぎて迷う理由
中小企業庁の資料によれば、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人に上ると試算されており、そのうち約半数が後継者未定とされています。数字で見ると、事業承継は「一部の大企業の話」ではなく、町の飲食店や美容室にとって今まさに向き合わなければならない現実であることが分かります。
にもかかわらず、多くの経営者が「相談先が多すぎて、どこから手をつければいいか分からない」と口をそろえます。税理士、弁護士、社会保険労務士、中小企業診断士、M&Aアドバイザー、銀行、商工会議所……。それぞれが「事業承継のサポートをします」と言っているのに、同じことを言っているわけではありません。
なぜここまで混乱するかというと、「事業承継」という言葉の中に、実は4つの異なる問題が同居しているからです。
- ①株式・資産の移転(税務・法務)
- ②経営権・リーダーシップの引き継ぎ(組織・マネジメント)
- ③売上・利益を生む仕組みの移転(経営・販促)
- ④後継者が「継ぎたい」と思える事業づくり(経営改革)
この4つのうち、税理士が強いのは①だけ。弁護士も①の一部。②③④をカバーできる専門家は、実は限られています。そして小さな会社の事業承継で本当に重要なのは、③と④だったりするのです。
専門家ごとの「得意領域」と「限界」を整理する
ここを整理しておかないと、「専門家に相談したのに、自分が悩んでいた部分には全然触れてもらえなかった」という事態が起きます。
❌ 「とりあえず税理士に相談した」パターン
- 相続税・贈与税の試算はしてくれるが、「店が後継者に継げる状態かどうか」は対象外
- 株式評価・持株比率の最適化は得意でも、「売上が社長個人に依存している」という経営課題は扱えない
- 結果として「税金は最適化できたが、事業は継続できなかった」という本末転倒が起きやすい
✅ 「税理士に任せるべき領域」を正しく理解している場合
- 自社株の評価・贈与・相続税対策の設計は税理士に任せる
- 経営の仕組み化・売上づくりの部分は別の専門家に相談する
- それぞれが「何屋か」を理解して使い分けることで、全体がかみ合う
弁護士については、株式譲渡契約書・事業譲渡契約書などの法的書類作成が主な役割です。M&A(第三者への売却)を検討する場合の契約実務には欠かせませんが、「店の売上をどう仕組み化するか」という話は守備範囲外です。
社会保険労務士は、雇用契約・就業規則・退職金規程の整備という意味で事業承継の周辺を支えてくれる存在です。後継者がスタッフをどう引き継ぐかという場面では頼りになります。
中小企業診断士は、経営計画の策定・収益構造の分析・補助金活用のアドバイスまで含めた「経営全体」を見られる国家資格者です。ただし、診断士にも「財務が強い人」「マーケティングが強い人」「製造業専門の人」といった得意領域があるため、店舗経営の現場経験があるかどうかは確認すべきポイントです。
「事業承継で一番怖いのは、税金の最適化だけ完璧にやって、肝心の『売れる仕組み』が何も引き継がれないまま後継者が困り果てるケースです。書類が整っていても、お客さんを集める力が社長個人の頭の中だけに入っていたら、承継した瞬間から売上が落ちていく。これを私は『見えない事業承継リスク』と呼んでいます。」
ハワードジョイマン(有限会社繁盛店研究所 代表取締役・中小企業診断士)
✓ ここまでのポイント
- 事業承継の相談先を1か所に絞らず、「税務・法務」「経営・仕組み化」「組織・採用」の3領域で専門家を使い分けること
- 税理士・弁護士が強いのは資産移転の法務・税務であり、「売上の仕組みを引き継げる状態にする」という部分は経営コンサルタント・中小企業診断士の領域
- 小さな店舗ほど「社長個人依存」の度合いが高く、仕組み化が承継の前提条件になる
「継がせられる店」になっているか──承継前の自己診断
専門家への相談と並行して、もっと手前でやるべきことがあります。それは「そもそも今の自分の店は、後継者が継ぎたいと思える状態になっているか」という問いに向き合うことです。
チェックポイント1:集客の仕組みが「自分の頭の外」に出ているか
「新規のお客さんがどこから来ているか」「リピートするお客さんをどう育てているか」が、社長の経験と勘に頼っている状態では引き継げません。Googleビジネスプロフィールの運用・LINE公式アカウントでの顧客リスト化・販促スケジュールの文書化が最低限の出発点です。
✅ ポイント:まず「お客さんが来る仕組み」を可視化・言語化することから始める。社長がいなくても同じ集客が再現できる状態を目指す。
チェックポイント2:利益の出るメニュー・価格設計が後継者に分かるか
「なんとなく利益が出ている」ではなく、どのメニューの粗利率が高いか・どの客層が利益貢献度が高いか、数字で把握されているかを確認します。これが分からないと、後継者は「売上を追いかけて利益を削る」失敗を繰り返します。
✅ ポイント:主力メニューの粗利率・客単価・注文構成比を数字で整理し、「利益が出る売り方」を後継者に伝えられる状態にする。
チェックポイント3:顧客リストが存在するか
お客さんの情報(来店頻度・好み・特別な日)が社長の記憶の中だけにある状態は危険です。LINEの友だちリスト・予約システムのデータ・顧客カードなど、何らかの形でリストが存在しているかを確認してください。
✅ ポイント:顧客リストは「事業の資産」。承継の際に最も価値が高い有形無形の資産の一つ。今日から積み上げを始めることに遅くはない。
「奈良県のうどん店のケースでは、既存メニューの麺の幅を少し変えただけでSNSでバズが起きて、SNS経由の注文が1.5倍になりました。大事なのは、そのノウハウが『店主の感覚』として残るのではなく、『なぜこの施策が当たったか』を言語化して記録に残すこと。それが仕組みになって、初めて引き継げる資産になります。」
ハワードジョイマン(有限会社繁盛店研究所 代表取締役・中小企業診断士)
承継成功事例に共通する「数字」で見る準備期間
事業承継の準備にどのくらいの時間が必要かについては、中小企業庁の「事業承継ガイドライン(2022年改訂版)」でも「最低5年、理想は10年前からの準備」が推奨されています。実際、私がサポートしてきた20年・全国の飲食店・美容室経営者の事例でも、この感覚とほぼ一致しています。
たとえば千葉県のお好み焼き店では、店内売上だけに頼る構造から脱して、製薬会社向け弁当(単価2,500〜3,000円)を朝50個受注する安定収益ルートを構築しました。
「店内売上だけだと、自分が現場にいないと回らない。でも弁当ルートができてからは、スタッフだけで動かせる収益が生まれた。後継者に渡すときにも、この仕組みがあると安心感がまったく違います。」
千葉県・お好み焼き店経営者(50代・男性)
また和歌山県の飲食店では、月商130万円から450万円へと伸長した事例があります。ランチに「メイン3つ同時盛り」プレート(2,300〜2,500円)を開発し、地域に存在しない独自コンセプトで客単価と集客数を同時に引き上げた。このメニューのコンセプトが言語化・仕組み化されているからこそ、後継者に引き継ぎやすい状態が生まれています。
共通しているのは、「承継の準備」を「税金の整理」だけで終わらせず、「売上を生む仕組み」を一つひとつ言語化・見える化していったという点です。
まとめ|相談相手を選ぶ前に、まず「何を承継するか」を決める
事業承継の相談先について、最後に一言でまとめるとすれば、「何を承継するかを先に決めてから、その領域の専門家を探す」という順番が正解です。
税金・株式の話は税理士へ。契約書は弁護士へ。雇用・労務は社労士へ。そして、「売上を生む仕組みを後継者に引き継げる状態にする」という最も本質的な部分は、店舗経営の現場を知る中小企業診断士やコンサルタントに相談してください。
私自身、中小企業診断士(経済産業省登録番号 402345)として、また飲食店・美容室・小売店の経営改善に20年以上・全国で向き合ってきた立場から言えるのは、「継がせられる店を作ること」と「売上を伸ばすこと」は、実は同じ取り組みだということです。
仕組みができていれば、後継者は継ぎたくなる。仕組みができていれば、売上は維持される。そしてその仕組みは、今日から少しずつ作り始められます。
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